2016年11月06日

小説と映画とナレーション

共通教育「日本文学」では、
小説と映画の表現を比較しています。

今回紹介したのは、
この前テレビでも放映していた、
「ヒロイン失格」です。
小説と映画とナレーション


「ヒロイン失格」は、
高校生の恋愛物語です。
(詳しくは、インターネットで検索してみてください。
幸田もも子のマンガが原作です。)

「ヒロイン失格」は、
主人公のはとりのナレーションと、
通学風景から始まります。

はとりは、幼なじみの利太が、
モテる男であることを紹介しながら、
相手、ヒロインとしてふさわしいのは、
自分だと宣言します。
小説と映画とナレーション


はとりのナレーションは、
映画を観ている人に、
物語が始める以前の、
人間関係、
また、これから起こるであろう、
未来の出来事を紹介します。

つまり、ナレーションは、
手っ取り早く、
人間関係やテーマを、
観客に紹介することができます。

(もちろん、「ヒロイン失格」では、
そのしゃべり方から、
はとりのユニークなキャラクターを、
観客に伝える役割も果たしています。
ちょっと自分に自信を持ちすぎているようですが、
愛すべき、一途な気持ちを持っています。)
小説と映画とナレーション


小説のナレーション(語り)も、
本来は、そういう役割を果たしています。
誰が、どこで、どんな事件を起こして、
どんな気持ちだったか。
そんなことを冒頭に示して、
物語を進行していきます。

しかし、近代の小説は、
必ずしも、そういう、わかりやすい情報を、
提示してくれるわけではありません。

例えば、夏目漱石の「門」(1910)は、
こんなふうに始まります。

  宗助(そうすけ)は先刻(さっき)から縁側(えんがわ)へ坐蒲団(ざぶとん)を持ち出して、
 日当りの好さそうな所へ気楽に胡坐(あぐら)をかいて見たが、
 やがて手に持っている雑誌を放り出すと共に、ごろりと横になった。
 秋日和(あきびより)と名のつくほどの上天気なので、
 往来を行く人の下駄(げた)の響が、静かな町だけに、朗らかに聞えて来る。
 肱枕(ひじまくら)をして軒から上を見上げると、
 奇麗(きれい)な空が一面に蒼(あお)く澄んでいる。
 その空が自分の寝ている縁側の、窮屈な寸法に較(くら)べて見ると、非常に広大である。
 たまの日曜にこうして緩(ゆっ)くり空を見るだけでもだいぶ違うなと思いながら、
 眉(まゆ)を寄せて、ぎらぎらする日をしばらく見つめていたが、
 眩(まぼ)しくなったので、今度はぐるりと寝返りをして障子(しょうじ)の方を向いた。
 障子の中では細君が裁縫(しごと)をしている。


どんな物語で、どんな事件が起きるか、
さっと読むかぎりでは、
よくわからないかもしれません。
小説と映画とナレーション


「門」は、最近私たちが楽しんでいる、
映画やドラマと違って、
端的に情報を示してくれません。

実は、こういう日常を描きながら、
その中に、ちょっと気になるようなところを、
混ぜていくのが、「門」の描き方なのです。

例えば、主人公は、自分のいる場所より、
空が広大だと、感じる感性の持ち主であることが、
示唆されています。

こういう小説は、説明できれば説明できるところを、
あえて抑えて、
読む側に、感じて、気づくことを求めているわけです。
小説と映画とナレーション


言葉を使う小説の方が、
あえて、はっきり説明しないというのは、
面白いですね。

報告:長沼光彦



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Posted by 京都ノートルダム女子大学      国際日本文化学科(人間文化学科)  at 16:45 │Comments(0)授業紹介日本語日本文化領域

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