2013年06月01日
能の魅力を知る:金剛流能楽師・今井克紀先生
人間文化学科1年次生必修科目「基礎演習」は、
10人以下の少人数クラスで、大学の学びの基礎を習得する科目ですが、
一 年に4回、合同クラスの特 別講義を実施しています。
各方面で活躍されている著名な先生方をお招きし、
文化について、よ り深く、多角的に学んでもらうことがねらいです。
これまで、琴古流尺八奏者の岡田道明先生、
和紙デザイナーの堀木エリ子先生、
絵本作家の永田萠先生など、さまざまな分野 の先生方をお迎えして、
学生たちの興味・関心が広がり深まる、貴重なお話を多々うかがってきました。
さて、今年第一回目は、
金剛流能楽師・今井克紀先生による
「能の魅力を知る~面白さを体験してみよう~」と題する授業で した。
最初の30分は、ホワイトボー ド、パワーポイント、DVDなどを用いた講義です
能がどのようにして生まれ、どのように発展して
「四座一流(金剛、金 春、観世、宝生と喜多)」として現代まで継承されてきたか、
その歴史について分かりやすく解説して下さいました。
義満、信長、秀吉、家康、秀 忠といった武将たちが
能の発展に大きく関与していたというお話に、歴女たちの目が輝きます。
その後、金剛能楽堂の写真を拝 見しながら、
能舞台の造りや意味について、お話下さいました。
能は本来、神に奉納するために神前で行うものなので、
浄瑠璃や歌舞伎と違って緞帳はない、シテが登場する所にある揚げ幕は、
あの世(鏡の間)とこの世(舞台)とを隔てるための もので、
あの世からこの世に渡る細い廊下のようなところを橋掛かりという、などなど、
演劇と言えばミュージカ ルぐらいしか見たことのない現代っ子たちにとって、興味深いお話でした。
ご講義のあとは、実技です。
ま ずは謡。
詞章が配られ、先生のお手本を拝聴します。
曲は、世阿弥の名作「羽衣」で す。
天人が奪われた羽衣を取り返すため、舞いを舞って、天に帰って行くという話。
謡ったのは、次の一節です。
迦陵頻伽(かりょうびん が)の馴れ馴れし、迦陵頻伽の馴れ馴れし、声今更に僅かなる、雁がねの帰りゆく、天路を聞けばなつかしや、千鳥鴎の沖つ波、行 くか帰るか春風の、空に吹くまでなつかしや、空に吹くまでなつかしや。
先生が謡いを始められたとたん、空気が変わりました。
今まで何となく弛緩していたムードが一気にぴんと引き締まったのです。
学生たちの背筋が伸びた ように見えました。
何百年と磨き上げられてきた伝統の威力を目の当たりにした気がします。
その後、先生の後について、謡 う練習をしました。
独特の抑揚があり、そう簡単なものではありません。
喉から声を出すだけでは、先生のような 声は出しえないことを実感します。
さて次は、仕舞の実践です。
物 語の末尾、天人が天翔(あまがけ)り天に帰っていくシーンで、
扇を羽のように使いながら舞います。
東遊びの数々に、東遊び の数々に、その名も月の色人は、三五夜中の空にまた、満月真如の影となり、御願円満国土成就、七宝充満の宝を降らし、国 土にこれを施し給ふ、さるほどに、時移って天の羽衣、浦風にたなびきたなびく、三保の松原浮島が雲の、愛鷹山や富士の高嶺、かすか になりて、天つ御空の霞に紛れて失せにけり。
20人ずつくらい、中啓(扇)を手に持ち登場、先生の振りを見よう見まねで、舞います。
途中「七宝充満の宝を降らし」の ところで、中啓を招くように用いるのですが、
先生が「ゴールデンボンバーのように」と仰ったので、学生たちも 俄然調子に乗ってきました。
やはり体を動かして学ぶのは楽 しいようで、
終始笑顔で、初の仕舞体験を楽しませていただきました。
最後に、先生が能面をつけて、今 舞ったところの模範演技をお見せ下さいました。
謡いながら舞うことの難しさを想像しながら、みんな喰い入るような目で見 つめていました。
日本伝統芸能の奥深さを身をもって学ばせていただきました。
今井先生、ありがとうございました。
以下、受講した学生たちの感想 です。
WAさん
実際に間近で能について、話を聞かせていただき、とてもおもしろく興味深かったです。
意外と動きが多く、ハー ドなんだと知りました。
動きと声の両方なので、一種の運動のようで、私だとすぐに息が上がりそうだと思いました。
プリ ントもあったので、謡の内容も理解できて、楽しかっ たです。
KTさん
仕舞いを習ってみて、一つ一つの動作に意味があることを初めて知りました。
見ているだけだと、あまり難しさ が分からなかったけれど、 やってみるととても大変でした。
動きだけでも習得するのに時間がかかりそうなのに、
言葉をつ けたらさらに難易度が上がるだろうなと、実感しまし た。
FEさん
能を実際に見たのは初めてでした。
舞台の構造があの世とこの世だということも初めて知りました。
お面が角度 によって笑って見えたり怖 く見えたりして、
私は正直あのお面が怖くて苦手なのですが、おもしろかったです。
声を出すのも大変でし たが、今井先生の声はやはり美しいなと思い ました。
MYさん
先生が普通にお話をされる時のお声と、能の時のお声がまったく違ったので、とても驚きました。
私は滋賀県の 守山に住んでいて、市民 ホールはすぐ近くなのに、
地元を舞台にした能についての取り組みがあったなんて、全然知りませ んでした。
今度是非その「望月」を見に行ってみたい なと思いました。
OMさん
能について、あまり見たことはなかったので、今日詳しくお話を聞いて、とても興味がわきました。
能が平安時代から始まり、今まで続い ていること、
そしてそれを受け継いできた人たちがいることに感動しました。
KMさん
高校で能を見に行ったことがあり、授業でも詳しく学んだのですが、
能楽師の方から直接その歴史や文化のお話 をうかがい、
能の奥深さを いっそう感じることができました。
また、実際に謡や仕舞のご指導をいただく体験ができ、
と ても貴重な時間を過ごせて、よかったです。
MYさん
実際体験してみて、扇の使い方がとても難しいと思いました。
また舞いながら、どういうストーリーで舞って いるのか解説いただいたので、わかりやすく楽しかったです。
貴重な体験ができて、よかったです。
報告 堀 勝博
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