北京での研究発表

京都ノートルダム女子大学      国際日本文化学科(人間文化学科)

2019年12月25日 01:27

 
去る10月18日〜21日まで、北京で世界漢語教育史研究学会が開催されました。私も他大学の教員と一緒にこの学会に参加し、発表をしてきました。

 この学会は世界中の人々の中国語学習史、教育史を研究する研究者の集まる学会です。私は日中近代語彙史を研究する一環として、宣教師の中国語学習、中国語翻訳も研究しています。今回は「宣教師の著作にある上海方言―『地理志問答』を資料に」というタイトルで発表しました。








 


『地理志問答』(1853)はアメリカ人女性宣教師(M.A. Posey)が上海の小学生のために上海語で編集した世界地理の教科書です。この小さい教科書の中に、16世紀に来華したイエズス会宣教師たちが作った地理翻訳語「地球、赤道、溫道、寒道」などが受け継がれています。また、「土股(peninsula)、海股(gulf)」のような、独自の翻訳語も、創意工夫により、作られました。残念ながら、これらの言葉は後により正確で、洗練された「半島、海湾」に置き換えられました。しかし、これらの言葉は無駄だったのではなく、翻訳語誕生過程のひとこまとして、非常に有意義なものだったと考えられます。











 

その他、『地理志問答』は19世紀の上海語で書かれているため、現代人のわれわれに、音訳語に関する170年前の貴重な上海語資料ともなりました。例えば、四角倫(蘇格蘭、Scotland)、司陪嗯(西班牙、Spain)、雖遁(瑞典、Sweden)など、興味深い表記を見出すことができます。ちなみに、括弧のなかの漢字音訳語は昭和初期まで日本語としても使用されました。


 宣教師たちの翻訳書を通して、彼らの中国での文化活動の一端を見ることが出来ました。彼らは宗教活動のために、当時の中国の知識人層で使われていた官話(Mandarin)を学習しただけではなく、民衆の間で使われていた方言も一所懸命勉強し、東西文化の伝道師の役割を務めました。











 

今回の発表は私の研究の一部でしかありません。宣教師の文化活動についての研究はまだまだ続きます。


(報告者: 国際日本文化学科教授 朱鳳 〈しゅ ほう、日中近代語彙交流史〉 )


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