丸善で檸檬を見た
ある雨の夜、同僚の先生の車で御池まで送っていただいた。そこから四条まで歩いて河原町通を下がっていく途中、三条にあるBALといふビルの建て替へ工事が終はり、そこに丸善(書店)が復活してゐたことを知った。
今をさかのぼること40年ほど前、学生だった頃に訪れて以来だったので、懐かしくなり、立ち寄ってみることにした。昔と違ひ、店は地下に入ってゐた。
地下に向かふエレベータの中で一つの想念が生まれた。きっと、店内に檸檬(レモン)が飾ってあるに違ひない、探してみようと。店に入るや、すぐにその想念どほりに、檸檬が飾ってあるのを見出し、変にくすぐったい気持ちがした。籠の中に、二つの檸檬が仲良く鎮座してゐたのだ。
それを見た私は、一応満足はしたものの、一抹の物足りなさを禁じえなかった。それら黄金色の紡錘形が、カーンと冴えかへってはゐなかったからだ。檸檬はすべからく積み上げた本の上に置いてほしかったのである。
〈堀 記〉
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