大学院生中間発表

京都ノートルダム女子大学      国際日本文化学科(人間文化学科)

2014年08月11日 03:19

7月30日に大学院人間文化専攻の院生の中間発表が行われました。3人の院生に以下のような多彩なテーマについて発表してもらいました。それぞれ、魅力的なテーマ、アプローチなので、今回の発表、質疑応答を踏まえてのさらなる進展が期待されます。



1) 「鳥獣花木図屏風」論:甦った伊藤若冲

伊藤若冲の『鳥獣花木図屏風』は、本来の日本画の造形、構成、手法で制作されていない異質な作品である。仏画に通ずる東洋的な側面に加え、西洋的な楽園に通ずる性格を併せ持っていると考えられる。作者・若冲の人間性や思想、絵画への姿勢などを、作品を通して大胆に深く考察したい。
 あわせて、その桝目描きの手法についても考察する。従来の研究では、西陣織のための図案「正絵」からの影響が指摘されている。正絵は図案として、完成品と同一寸・同一色に描いたものである。明和(1764~1771)頃より、鑑賞用として、掛軸、衝立、屏風などに仕立てられ、円山応挙も正絵の下図を描いている。また、西陣織だけではなく、西洋のタペストリーも本作品の制作には重要であったと考えられるので、主題・モティーフとともに分析していくこととする。

2) 「やまぶき」考―古今和歌集122番歌の解釈とその後の作品への影響―

本研究は、『古今和歌集』春下巻122番歌「春雨にゝほへる色もあかなくにかさへなつかし山吹の花」の解釈を中心にこの歌のその後の作品への影響を考察するものである。この歌に詠まれている「山吹」は和歌で用いられる際「井出」や「蛙」といった語が用いられることが常套手段である。この歌はこれらの語を用いず「香」という言葉が用いられている。これは珍しいもので、少なくとも『三代集』までの「山吹」を詠んだ歌には「香」について詠まれたものはない。この122番歌の解釈書でも「香」について触れたのは本居宣長の『古今和歌集遠鏡』が最初であり、それ以前の解釈書では「香」について触れられてもいない。今後は、今回調べた註釈書以外のものではどのように解釈されているかを調査しつつ、この歌が後世にどう影響を与えたかを他の和歌集での、また散文での用例も検討しながら考察していく。

3)太宰治「きりぎりす」に関する研究

 「きりぎりす」は、昭和十五年に発表された女性一人称小説である。成功による夫の人格の変化を、妻である主人公の視点から批判する内容である。
 「きりぎりす」は後に書かれた「あとがき」の響力もあり、作品中に登場する「夫」批判、反俗精神が主題とされてきた。しかし、主人公は夫を「俗」であると批判する立場にありながら、作品中からはその批判の根拠となる主人公自身の清貧観が不確かであるように見える箇所が見られる。そこで、主人公が信頼できない語り手であることについて、作品が書かれた昭和十年代の清貧観や「あとがき」の信憑性といった作品の外側から、主人公の人物像や主人公から語られる他の人物像をテクスト分析によって内側から論じる。



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