2018年09月16日

元客員教授 浜尾朱美先生を悼む



 TBSテレビニュース23で故・筑紫哲也氏とともにキャスターを務められ、2012年から2年間、本学の客員教授としてお力添えをいただいた浜尾朱美先生が亡くなられました。


 浜尾先生は、本学人間文化学科が新しくスタートさせたプログラム「話し言葉の教育」に共感され、招聘に応じてくださいました。「日本語の朗読」などの特別講義を担当されました。


 本学は少人数が中心の授業なので、1つのクラスに学生は多くて3、40名しかいないのですが、先生はその学生たちのために、遠きをいとわずご自宅のある東京から京都まで、ご出講下さいました。


 その時すでに大きな病と闘っていらっしゃったということを今回の報道で知り、大変驚くとともに、遠路のご移動がお身体にさわったのではないかと申し訳ない思いでいっぱいになりました。


 先生は、「心を伝える言葉」とりわけ「声を出すこと」の大切さを力説されました。


 声に乗せて、心をとどけるのですよ、だからできるだけしっかり、自分の真心をとどける本当の声を出しなさい



 心から響く声が耳を通して心にとどき、相手の腑に落ちていくんです



 それは単なるコミュニケーション技術という以上に人間関係の基本にすえるべきものでもあります


 声や言葉というものは、その人の人生を反映するものなんです


 声の出し方一つ、言葉の使い方一つでその人の人間力が伝わるんです


 しっかり声を出すためにもいろいろな本を読み、いろいろな体験を積んで下さい


 そういうことを常におっしゃっていました。キャスターとしてテレビで拝見していた時、ニュース映像の合間に時に発せられる浜尾先生のお言葉がわれわれ視聴者の心を捉えたのも、ここに理由があったのだと納得した次第です。


 教壇に立たれた時の先生は、一方的に自説を語るだけの講義ではなく、学生一人ひとりの顔を見、その個性と心に向き合った対話のような授業をなさっていました。「声にのせて心をとどける」ことを授業で実践されたわけです。


 息子さんのお話やご自身の体験談を交え、できるだけ具体的にわかりやすくお話し下さっていたのも印象に残っています。


 「声にのせる」という意味では、朗読の大切さについても教えていただきました。「学んだ言葉を自分の音にのせ、誰かのもとに届けることが朗読ですよ」とお話しになっていました。長文の「外郎売り」を一言一句間違えずに披露されたのは、プロとしては当然だったのでしょうが、感動的でした。


 先生と最後にお話ししたのは、朗読のBGMのことでした。私が、宮沢賢治「永訣の朝」の朗読にラフマニノフ「ヴォカリーズ」をBGMにしたら盛り上がった気がすると申し上げたのに対して、先生は、自分ならJ・ダウラントのリュートをかけるかなとおっしゃっいました。曲名はおっしゃいませんでしたが、間違いなく「ラクリメ(七つの涙)」でしょう。


ヴォカリーズは、曲の印象が強すぎて朗読の魅力を半減してしまう。J・ダウラントの静かなリュートなら、おとなしく文字通り背景の音楽となってくれる。浜尾先生のお答えの意味はそういうことだったと気づきました。そのさりげない答えにも、朗読者としてのプロ意識が垣間見えました。


 わずか2年間でしたが、われわれに多くのことをご教示下さった浜尾先生にあらためて感謝申し上げます。ご冥福をお祈り申し上げます。



  菊の花には少し季節が早いので、秋明菊を手向けさせていただきます。






(堀勝博)



  


Posted by 京都ノートルダム女子大学      国際日本文化学科(人間文化学科)  at 18:10Comments(0)日記話しことば教育教員紹介